眠りの牢獄 浦賀和宏

過去の事故で愛した女性が昏睡状態にある主人公。
その女性をめぐり集められた主人公を含める三人の青年と彼らを集めた女性の兄。
その主人公の視点で話が進行していきながら、彼氏に振られた事を受け入れられずにストーカーと化しつつある女性の視点も同時進行でストーリーは進んでいきます。

この二つの話がどうくっつくのか?

これを気にしながら読み進めると早い人は中盤辺りにこの二つのストーリーの接点が見えて来ると思いますが、それは個人的には深読みせずに読み進める方が楽しめそうな気がします。



ここからはネタバレ込みなので、これから読む予定の方は戻るをお願いします。



まず青年という言葉が男性だけではなく女性も指すということを知らなかった自分、すっかりAmazonの紹介文に騙されてしまいました。恥ずかしい。
確かに文章冒頭から思い返せば、苗字だけで登場する人たち。苗字を記さず名前だけで登場する人物。兄という続柄のみで表されている人物など、小説ならではの叙述トリックを使ってくれていました。
文中の亜矢子と浦賀の性交シーンの描写は、なんとなく苦手で読み飛ばしてしまっていたのですが、あの辺りにもトリックの一端があったのかもしれないと思うと、食わず嫌いせずにキチンと読んでおけば良かったな、などと今更ながらに思います。

そしてずっと本編と思いながら読んでいた小説が実は浦賀が亜矢子に捧げられた小説であったということ。最初に封筒に包まれた小説を受け取る浦賀のシーンとシンクロするかのように、亜矢子が目覚めと同時に看護師に封筒を受け取るというのが良かったですね。
ですが、できれば亜矢子の目覚めた世界では兄も友人たちも、そして愛する浦賀も元気で彼女の目覚めを待っていました…。みたいな幸せなどんでん返しがもう一回あったら…。などとそんな事を思う私なのでした。

彼女は存在しない 浦賀和宏

私個人の読書備忘録として書いていこうかと思って始めました。

さっそくですが、本日読了した浦賀和宏「彼女は存在しない」について

ネタバレ含むので、これから読む予定だったりする方は”戻る”お願いします。



基本的には根本と香奈子という二人の視点を通して交互にストーリーが進んでいきます。
いわゆる”叙述トリックが使われている作品”だろうと思いながら読み始めたので、私としてはもしかしたら同時に進んでいるように見えて違う時間軸ではないのか?とかこの香奈子が実は根本の妹の亜矢子なのではないか?と

そして本編に散りばめられた、亜矢子の携帯ストラップの色とか自室にあった小説や雑誌についての記述その他諸々の伏線となりそうな小ネタを読みながら、香奈子と亜矢子が同一人物というのは中盤辺りで確信しました。(と同時に時間軸がずれているって線は無いなというのも確信)

しかし、根本が性的虐待の被害者であったということにはびっくり。
以前読んだ浦賀和宏氏の作品も、あたかも女性を男性であるかのように見せかける叙述トリックを使っていたので、そういった形のトリックが使われているかなとは思っていましたが、そこで来るとは…。


読み終えて思うのは、作中の半分を占める香奈子も根本もとうてい幸せとは思えない結末を迎えて終わってしまった事に対する後味の悪さはなんとも言えません。


ここ最近ですが、叙述トリックが凄い!シリーズを読み漁っていたせいか、わりと早い段階で気づいてしまいましたが、普通に読んでいれば最後に驚かされるだろうと思います。ただなかなか人には薦めづらい作品ではありますね。